トップ > ブログ >  > ”クレイジー”な15代目社長の革新

”クレイジー”な15代目社長の革新

2017.9.30 | ,

From:萩原 敬大(はぎわら たかひろ)

”「企業の基本的な機能はマーケティングとイノベーションの2つしかない」”

経営学の父と呼ばれるP.ドラッカーは言いました。リッチもこの引用を「BGS」の中で使っていますが、、つまり、突き詰めると、社長が本当にやるべき仕事はこの”2つだけ”ということになります。

今日は、その2つのうちの”イノベーション”に徹することで、、下請けに甘んじていた酒蔵を、フランスの3つ星レストランからも高い評価を受ける酒蔵へと立て直し。見事に再生させたある社長の事例から、小さな会社が大企業をも打ち負かすような”イノベーション”を起こすヒントをお伝えしていきます。

20年前まで大手の下請けだった
愛知県の小さな酒蔵…

先日見たドキュメンタリーで、愛知県にある小さな日本酒の酒蔵が紹介されていました。その名は「萬乗醸造」。なんと江戸時代初期の創業という、かなり歴史のある酒蔵です。おそらくご存知の方もいるかもしれませんが、、ここの代表的なお酒は『醸し人九平次』という日本酒です。

国酒といわれる日本酒ですが、、国内での消費量はピークの3分の1まで減少。業界全体は完全に右肩下がりで、この35年間でほぼ3分の1に激減しています。そして、、かつて全国に3000以上あった酒蔵も、今や約1500に半減してしまったと言われています…

「醸し人九平次」HPより転載
http://kuheiji.co.jp/brand_more/index3.html

そんな中、この『醸し人九平次』は、日本酒の新たな歴史を切り開き、白ワインのような繊細な飲み口と味わい、ワイングラスで飲むという独特なスタイルで、購入に本数制限がかかるほどの人気を集めています。社長自ら販路を切り開き、フランスの一流ホテル、3つ星レストランにも採用され、海外での人気もどんどん高まっているようです。

今ではとても順調な「萬乗醸造」ですが、、実は20年前までほとんど大手の下請け状態。全然利益が残らない…そんな厳しい状況にあえいでいました…

「自社ブランドの酒でメシを食いたい。さもないと300年以上続いた家業が潰れてしまう… かといって、従来と同じ酒を造っていたのでは大手には絶対にかなわない。うちのような小さなところが戦えるカテゴリーはどこなのだろうか。。

当時、家業を継ぐことを決めた15代目の久野九平治社長は、このことをずっと考えていました…

業界では「九平次」ではなく
「クレイジー」と呼ばれる異端児

家業を継ぐまで”演劇の世界”にいたという、異色の経歴を持つ社長は、白髪に長髪、常にジーンズにパーカーというラフな格好で、かなり個性的な風貌です。

そんなバックグラウンドからか、この方はかなり頭が柔らかく、、「ライバルは日本酒ではなく、世界のワイン」と豪語。あまりに変わったことを実行しまくるので、業界では「九平次」ではなく「クレイジー」と呼ばれているらしいんですが…笑 本当に驚くほど面白いアイデアを次々と実行に移しているんです。 たとえば…

イノベーションのPoint⑴:
業界の当たり前を疑う

まず、久野社長がやったことは、徹底的に業界の当たり前を疑うことでした。当時多くの日本酒メーカーは機械による大量生産が当たり前でしたが、あえて真逆の「手作り」へと全面的にシフトしました。全てのお酒を手作りにして、ラベルさえも手張りにすることで、、”少量生産のこだわりの酒”として差別化したのです。 

さらに、ワインはブドウの栽培にも造り手が積極的に関わるが、日本酒では米を育てるのは農家で、蔵元はその米を買い上げて酒にする。という業界の当たり前を疑問に思った久野社長は、兵庫県の播磨に自社の田んぼを作り、米作りをはじめ、農業から日本酒を改革することにしたのです。

”「世の中が大きく逆に振れ動いて、その時々の『当たり前』が変わるなら、その最先端にいたい。世の中、二番煎じはなくて、最初にやった人が圧倒的に評価される。メーカーとして新しい当たり前を提案し、お客さんに評価してもらう。そして次の時代の当たり前を創り出したい」”

「ダイヤモンドオンライン」より引用
http://diamond.jp/articles/-/140124?page=5

そんな風に久野社長は語っているのですが、このように次々と業界の当たり前を疑う質問を自らに投げかけ、イノベーションを起こし続けています….

イノベーションのPoint⑵:
異業種・異文化をベンチマークする

歴史的に見ても、業界を覆すようなイノベーションは、やはり全く同じ業界ではなく、異業種や異文化から見つかることが多いです。

この点について、久野社長は「ワイン」という工程の違う醸造酒。そして、そのワインの生産が盛んな「フランス」に目をつけ、徹底的に研究を重ねています。なんと2013年には、フランスのワイン醸造所に社員を派遣して研修。それと同時にフランスで米作りを行なうとともに、ブドウ畑まで取得して、ワイン造りにも挑戦し始めます。

”「やはり相手の懐にあえて飛び込まないと、どういう風にやっているかはわからない。やってみないとわからないんだから、、とにかく自分で試してみるんです。」”

そのほかにも・・「ワインの樽に日本酒を入れてみたらどうなるんだろう?」「その中で日本酒を貯蔵したら、味や香りはどうなるんだろう?」そんな疑問を持って、フランスからワイン樽を輸入し、あえて検証していたり、、なんと日本酒に感動したフランス人を蔵人として招き入れ、異文化を率先してミックスし、それによって起きる”化学反応”を楽しんでいます。 

この好奇心と探究心、、すごいですよね。

イノベーションのPoint⑶:
”ノンカスタマー”に目を向ける

久野社長は、「消費者に『お酒』を買ってもらっているつもりはない。投資の世界で言う未来とか、期待値を買っていただいていると思っているんです。」こんな発言をしているように、自分はただ日本酒だけを売っている酒蔵だ。そんな狭い定義は持っていません。なので、、これまでの日本酒好きの層だけでなく、新しく顧客になり得る層を積極的に開拓しています。

例えば、フレンチの高級レストランに行けば、当たり前のように何万円という高級なワインが飲まれている。なぜ、ワインを飲んでいる人が、日本酒は飲まないんだろう?きっと可能性はあるんじゃないか? そんな風に考え、日本酒の新しい飲み方を自ら提案。

フランスのパリにある一流ホテルや、3つ星レストランへ社長自ら飛び込みの営業をかけ、見事取り扱いを決めました。そして、その味が評判を呼び、次々にフランスの高級レストランで採用されることになりました… これまでの和食という狭いマーケットから、一気にフレンチを楽しむ人にまで顧客を開拓したのです。  

そのほかにも、、「日本酒は肉じゃなくて、魚でしょ。」そんな常識の真逆をいき、「肉」と日本酒のマリアージュに挑み、焼肉店にも販路を拡大しました。

P.ドラッカーいわく、イノベーションのタネを見つけるには”2つの方法”があると言っていますが、、1つ目が「予期せぬ成功を探す」こと。これは、顧客をリサーチしてみたら商品を意外な使い方で使っていた。想定とは違う、意外な人が買っていた。そこをもっと深く調べることで、大きく広がる可能性が見つかるというものです。

そして、、もう1つが今回 久野社長が行った「ノンカスタマー」に目を向けるというものです。 スタバには行くのに、ドトールには行かない人がいるのはなぜだろう? セブンイレブンには行くのに、ローソンには行かない人がいるのはなぜだろう? ヒルトンには泊まるのに、インターコンチネンタルには泊まらない人がいるのはなぜだろう?…

といった具合に、自分に関連している業界で、まだお客になってもらえていない人(ノンカスタマー)を探すことで、大きく市場を広げるチャンスが見つかる可能性があります。これもやはり、とっかかりとしてはお客さんに聞いてみること。「なんでうちのじゃなく、他のを買ったんですか?」と、答えではなく、手がかりを集めてそのポイントを突き止めていく。そんな意識で探していくと、、新たなチャンスが見えてくるはずです。

イノベーションのタネを
見つけやすくするためのヒント

「ポストイット」など、大ヒット商品を生み出し続けるメーカー「3M」。この会社には、勤務時間の15%を自分の好きな研究や、新しいことを学ぶために使ってもよいとする「15%カルチャー」というルールがあります。

実は「ポストイット」も、15%カルチャーから生まれたもの。やはりただ単に目の前の業務をこなすだけでは、なかなかいいアイディアは出てきません。知識の幅を広げたり、人脈を広げたり、様々なことを体験して、自分の世界を広げていく。そんな”余白”の時間を持つことが、イノベーションを生むためには大切になってきます。

久野社長も、手紙を書いて直接いろいろな経営者に会いに行ったり、フランスにワインを作りに行ったり、田んぼでお米を作ってみたり、、美術館巡りをしているそうです。

”「企業の基本的な機能はマーケティングとイノベーションの2つしかない」”

おそらく、このメルマガを読んでいる多くの方は、マーケティングについてはきっと取り組んでいるはずです。でも、このように先を見据えて、意識的にイノベーションのタネを探していくこと。業界の当たり前を疑い、その可能性を広げて行くこともぜひ考えて見てください。その先には、きっと素晴らしいチャンスが隠れているはずです。

萩原 敬大

PS.
「萬乗醸造」のHP… 社長の酒造りに込める想いにシビれます。
http://kuheiji.co.jp/kokorozasu/index.html
こだわりを貫く姿勢、、カッコいいですよね。

萩原 敬大
萩原 敬大

Strategic Profits マーケティングマネージャー
メールマガジン購読者数41,238人(2017年1月5日時点)日本におけるリッチ・シェフレンの独占販売権を持つ【Strategic Profits】のマーケティングマネージャー兼セールスライター。販売プロモーションの企画、広告運用、セールスコピーのライティングなどを統括している。

萩原 敬大の記事一覧

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

【STRATEGIC PROFITS】の最新記事をお届けします